このシミュレーションは#0。つまり、何もないところから始まった。経験を積み重ねるには、土台、基礎が必要だ。その基礎を積み重ねるべく、今回の試みは行われた。
宇宙での生活。クルーは16日間、自分が宇宙にいるという感覚になっていた。その理由として大きかったと言えるのは、EVA(船外活動)の存在。外という空間に宇宙服を装備しなければ出られないこと。鉄の扉を開けるために3分もの減圧、加圧時間がかかること。外のクルー、中のクルー。近くにいるはずなのに遠くに感じること。物理的な距離ではない距離感の差が生まれたこと。この体験が私たちを宇宙に誘った要因ではないか。もう一つの距離感は、CAPCOM。1日2時間の定時交信。宇宙船の中は4人であるが、CAPCOMは地球側からの頼れる味方なのだ。遠く離れていても、私たちで把握しきれないことを把握し、支えてくれた。
今回のクルーの編成は4名。このクルー達のことについて少し触れておこう。チームのとしては、隊長・ヴェンザがクルーの空気を作る人であれば、副隊長村上はその空気を調整する人だった。宇宙の生活は自身の身の安全にも関わってくる。雰囲気のバラつきを無くすことは大切なこと。それに加え、今回の今回は一般人を代表して2人のクルーが入る。チームのモチベーションを担っていたのはこの2人であった。EVAや宇宙生活のための話し合いにおいて、言語の壁に阻まれながらも最後までこの4人はモチベーションを保ち切った。結果として、チームのバランスとしては良かったといえるだろう。
閉鎖環境が教えてくれたことは、宇宙の暮らし。ということよりも、この環境で人が人らしく生活するには何が必要なのか。ということ。人がたくさんのものにどれだけ依存しているか。どれだけの情報を拾えているか。ものの見方が変わること。
環境が変われば生活が変わるのは当たり前のこと。しかし、どんな環境においても人が人であり、より良い環境で生活したいしたいと願うのは当たり前のことではないのか。
わたしたちは16日間の旅で得たヒントで次のステップへ進む。
ジャーナリスト 高階美鈴